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行政書士の交通事故業務について

目次

行政書士の業務範囲と交通事故業務の位置付け

 行政書士は、行政書士法(昭和26年2月22日法律第4号)に基づく国家資格者で、同法第1条の2により、「行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。」とされています。

 行政書士は、同条に規定する「権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること」として、
 1. 自賠責保険請求書類の作成
 2. 自賠責後遺障害等級認定申請書類の作成
 3. 自賠責後遺障害等級認定の異議申立書の作成
 4. 自賠責紛争処理申請書類の作成
 5. 損害賠償額の積算書の作成
 6. 交通事故現場図面の作成
 7. 交通事故調査報告書の作成
などの交通事故業務を行っています。
 なお、「権利義務に関する書類」とは、権利の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とするものをいいます。

 確かに、行政書士も弁護士と同様に権利義務に関する書類の作成を業として行うことができますが、ここで問題になるのが弁護士法第72条です。
 同条は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と定めています。つまり、弁護士でない者は、報酬を得る目的で「法律事件に関する事務」を行うことができません。

弁護士法第72条の立法趣旨

 最高裁昭和46年7月14日判例は、「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行うことをその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のための必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講じられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公平かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条はかかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられる。」としています。

弁護士法第72条に規定する法律事件・法律事務の意義

 弁護士法第72条に規定する「法律事件」及び「法律事務」の解釈については、「事件性必要説」と「事件性不要説」の2つの学説が対立しています。

 事件性必要説は、弁護士法第72条に列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いや疑義があり、紛争がある程度成熟して顕在化又は具体化していることが必要であるとするものです。
 他方、事件性不必要説は、紛争の顕在化は不要であるとするものです。

 なお、法務省及び総務省の公式見解並びに学者の通説は、事件性必要説としていますが、日弁連の見解は、事件性不要説としています。

 法律事件とは、法律上の権利義務や事実関係に関して関係当事者間に法的主張の対立があり、制度的な訴訟などの法的紛争解決を必要とする案件のこと、法律事務とは、法律事件について法律上の効果を発生、変更する事項の処理のみでなく、法律上の効果を新たに発生・変更するものではないものの、法律上の効果を保全・明確化する事項の処理も含まれるとされています。

事件性必要説立つ判例・裁判例

 札幌地判昭和45年4月24日は、「法律事件に該当するためには、同列に列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いがあり、あるいは疑義を有するものであること、いいかえれば「事件」というにふさわしい程度に争いが成熟したものであることを要する。」としています。

 最高裁判平成22年7月20日は、「本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。そして、被告人らは、報酬を得る目的で、業として、上記のような事件に関し、賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の委託を受けて、前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、これを取り扱ったのであり、被告人らの行為につき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。」としています。

 広島高裁判平成27年9月2日は、「弁護士法72条は、弁護士資格を有さず、何らの規律にも服さない者が、自己の利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とする行為を放置すれば、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、このような行為を禁圧するために制定されたものである(最高裁判所大法廷昭和46年7月14日判決・刑集第25巻5号690頁参照)。このような立法趣旨、さらに、同条違反が処罰対象になること(同法77条3号)も考慮すれば、同条のいう「その他一般の法律事件」とは、同条において列挙された事件と同視しうる程度に法律上の権利義務に争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件をいうと解するのが相当である。」としています。

事件性不要説立つ裁判例

 大阪高判昭和43年2月19日は、弁護士法第3条と第72条について、「その内容は全く同一であり、弁護士法第72条本文で非弁護士が取り扱うことを禁止されている事項は、弁護士の職務に属するもの全てに亘る」としています。

行政書士の交通事故業務と弁護士法第72条(罰則規定)

 非弁行為とは、①弁護士でない者が②報酬を得る目的で③法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることをいいます。

弁護士法
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

【用語解説】
 ・法律事件とは、法律上の権利義務や事実関係に関して関係当事者間に法的主張の対立があり、制度的な訴訟などの法的紛争解決を必要とする案件のことをいいます。
 ・法律事務とは、法律事件について法律上の効果を発生、変更する事項の処理のみでなく、法律上の効果を新たに発生・変更するものではないものの、法律上の効果を保全・明確化する事項の処理も含まれるとされています。
 ・鑑定とは、法律上の専門知識に基づいて法律事件について法律的見解を述べることをいいます。
 ・代理とは、当事者に代わり当事者の名において法律事件に関与することをいいます。
 ・仲裁とは、当事者間の紛争の仲裁判断をなすことによって解決することをいいます。
 ・和解とは、争っている当事者に互いに譲歩することを求め争いをやめさせることをいいます。
 ・周旋とは、依頼を受けて、訴訟事件等の当事者と鑑定、代理、仲裁、和解等をなす者との間に介在し、両者間における委任関係その他の関係成立のための便宜を図り、その成立を容易にさせる行為をいいます。

 大阪高裁判平成26年6月12日は、「行政書士法1条の2第1項の「権利義務又は事実証明に関する書類」に該当するか否かは、他の法律との整合性を考慮して判断されるべき事柄であり、抽象的概念としては「権利義務又は事実証明に関する書類」と一応いえるものであっても、その作成が一般の法律事務に当たるもの(弁護士法3条1項参照)はそもそもこれに含まれないと解するのが相当である。・・・・
 これらの書類には、・・・有利な等級認定を得させるために必要な事実や法的判断を含む意見が記載されていたものと認められる。そうすると、そのような書類は、一般の法律事件に関して法律事務を取り扱う過程で作成されたものであって、行政書士法1条の2第1項にいう「権利義務又は事実証明に関する書類」とはいえないから、弁護士法72条ただし書の適用はなく、これらの書類の作成については、弁護士法72条により非弁護士による事務の取扱いが禁止されるものである。」としています。

 しかし、弁護士法第72条は、弁護士以外の者に対して法律事務のすべてを禁止している訳ではなく、「法律事件に関する法律事務」を禁止しているもので、これに該当しなければ行政書士は、行政書士法令の範囲内で法律事務を行うことができるということです。

 従って、行政書士は、交通事故業務として権利義務又は事実証明に関する書類の作成依頼があった場合は、面談等を通して事件性(法的紛争の発生)の有無について見極めたうえで、受任すべきかどうかを判断する必要があります。
 

まとめ

 以上から、行政書士の交通事故業務の対応については、次のとおり整理することができます。ただし、事件性の有無などの判断については、類型的な判断によるものではなく、個々具体的事案において個別的に判断することが必要です。

 そして、行政書士の社会的な責務を適正に果たすために、被害者の最終的な権利利益を損なうことがないよう、被害者と十分連携を保ちながら被害者の立場を理解し、被害者をサポートする姿勢が求められます。 

行政書士の交通事故業務の対応の可否について
項   目対応の可否
自賠責保険金請求又は請求代理通常、事件性はないので、できる
損害保険会社との被害者の示談代行できない
加害者等との示談交渉できない
加害者との示談書の作成相手方が合意している場合は、できる
医療照会による医証取得事件性の有無による
実況見分調書の取得事件性の有無による
損害賠償額の積算事件性の有無による
過失割合等の判断事件性の有無による
自賠責紛争処理申請自賠責紛争処理機構が対応を認めているが、できない
自賠責後遺障害等級認定申請(被害者請求)通常、事件性はないので、できる
自賠責後遺障害等級認定の異議申立事件性の有無による(非該当の場合に限定)
その他
成功報酬契約
 業務対価としての相当性を前提とするが、適正かつ妥当性を欠く高額報酬は、暴利行為(民法第90条の公序良俗違反)として無効になる(大阪高裁判平成26年6月12日参照)。